新書や文庫でない本を買うのは(場所をとるので)珍しく、読みたいと熱望した本も珍しい。まぁこれがソフトカバーでなくてハードカバーだったら買うのは躊躇したかもしれないけど(<本屋のこだわり・笑)。
案の定、手にした本は、(S社の本には珍しく)読みやすくて、一気読みしてしまった。2時間かかってないんじゃないか? 夜、帰ってから読もうと思っていたのだが、たまたま寝込んで家にいたので、ご飯に起きた際に一気に読んでしまったというわけ。
ちなみに、お値段は税込みで1,512円だが、Amazonポイントが1600円くらいあったので、珍しくタダよ。わーい。なんかお得感が漂う。
それで、身内で盛り上がっていたのも、普通の人には“憧れ”だったり“不可思議なもの”だったりする藝大だが、我々にとっては、さほど遠い存在ではない、ということだ。
たまたま今号の本誌が、藝大小特集のような内容(新学長・澤先生が表紙だったりArtist Close-upだったり、早期プロジェクトの取材をしたり、でここんとこやたら通称“上野の森”へ通っているためもある。おまけにそこの卒業生とはわんさと付き合いがあるし、現役の先生たちやらもよく知ってるし、音校はもちろん、美校の卒業生だって知り合い(主にデザイナー方面ね)に、少なからずいる。そこから聞いたエピソードやら、実際に美校をこのあいだ歩いて、ぜ〜んぶ(今の)学校を見学してきたとこだったりもする。藝祭もあったもんね。
という程度には世間様とは認識はずれているのだろうきっと。
かの『のだめカンタービレ』が流行したときも、音大生や音楽関係者の反応は、世間様とはだいぶ違っていた。だからといって面白がらないわけではなく、独特の捉え方をしている・・・知り合い弄ってて面白いな的な。あとは「そうかぁこういうところが面白いと思うのか」という感想を持つというか。
これは、以前の編集部で「音大特集をしよう」と何度か話し合ったり実際に行ったりした時に、音大関係者とそれ以外関係者との(同じ編集部員の)温度差にもつながっています。あるベテランアマチュアの、「音大って憧れがあるじゃないですか」発言には本気でびっくりして、「お、音大って”憧れる”とこなんすか?(あなたは、そんないい大学行ってたのに???)」・・・いやもちろん、音楽を将来やっていこうと考える少年少女が、殿堂だったり一流だったりブランドだったりする名のある音大や芸大に憧れるのはわかりますよもちろん。自分だって覚えがあるし、田舎の高校生にすぎなかった自分としては、「あぁ一日中、音楽しててよくて専門教育も受けられるガッコがある、しかも大学! で、すごく有名な先生'sにも直接習えちゃったりするんだ!」ていう方面の憧れは確かにありましたが。。。一般の、趣味で音楽をやれちゃってしまう人々が、音大に憧れる、なんていうのは、私にとっては、目からウロコというか、逆にびっくりな事実だったんですね。
確かになー、男子にとっては、おじょーさま(除:自分たちのような貧乏庶民学生)できれーでピアノなどの楽器が上手くて、、な人は確かに憧れなのかもしれないね、うん。とか納得したりもしましたが。。。
ということで、さっそく一気読み。
最初は、面白くて。。。さすが小説家の筆致! 読ませるねぇ。というか、いちいち作者の驚き(妻が現役芸大=美校生)が新鮮。なるほど、驚くのはそこかー! という感じです。
でもさすがに読み進めると、美校、半端ない! もちろん、話では知ってましたし、上野動物園のエピソードは知人からもリアルに聞いてたし(ペンギンを凍らせた話じゃなくて、動物園に柵越えて乗り込んでデッサンしてた話とか、「ホモ・サピエンス」の看板を作った話とかだけど)、実際の美校キャンパス内は、そのまんま森の中に工場が建ってる感じの校舎だし、、、でも、すごいな実際。
音校の方は、出てきた人がまた極端に一部な気もしますが、まぁほとんどが「あるある」の範囲で、さほど以外でもなかったけど、新学科二つは相当に”先端”だということもわかったし、、、そりゃ一般社会に適応していく人々から見れば、奇人変人なんでしょうねぇ。
ということで、「これでもか!」と提出される極端な例に、ちょと中だるみはする。なぜなら、ドキュメンタリーは初めてという著者は、手法を会議室や喫茶店でのインタビューをメインにしているらしいから。その人たちの活動の場でライヴや住んでるところや、先生方のところへも訪ねているのだけれど、そっちをもっと書き込んでもらうと面白かったかも。でもきっと、読む人(この場合、書く人も)は、聞く話の方が面白かったんでしょうね。
じっくり取材した、しかも最近。つい先日、芸大の学長は38年ぶりに音楽学部に明け渡され、名物学長だった方は、さらに上に行ってしまわれた。いや文中にも出てくるけれど、この学長さんもすごいひとだったらしい。あとを受け継いで、がんばれ! S先生‼︎
そして迎える藝大祭。最後の章のまとめに向かう中、音楽学部と美術学部の連携が語られる。
ここは個人的に、涙するところですね。
私立の「音楽大学=college」という単科大学へ進学した自分は、本当は総合大学である芸大に行きたかった(東京藝大じゃないけどね)。芸術とは、すべからくすべてがリンクしているもので、音楽だけ、美術だけ知っていても成立しない、と思うから。うちの当時の学長が力説していたけど、「本当に芸術を振興しようと思ったら、東京大学や京都大学に音楽学部や芸術学部を作るべきだ」だった。確かに設備も必要だし特殊だし、一般大学よりはるかにお金がかかるから、総合大学に作るのはかなり大変だけど、、、だからこそ官費でとも思う。
ギリシャ時代、芸術が生れた時、それは数学や哲学と同位でともに学ばれた学問だったはずだ。現に、音楽も美術も、幾何や天文や語学や物理や、多くの学問と切っても切れない関係にある。
そして、違う感性を持つ天才同士は、出会えば新たなインスピレーションを得るだろう。芸大が最近取り入れたというミスコンのビデオを見たことがあるが、なかなか面白いアイデアだ。企画し作り演じるが一体となったもので、これは芸大らしいといえるんじゃないだろうか。
異質なものが存在し、それに学生時代に思い切り触れられるのも学問の場だろうな〜。しかも彼らは学生の間から、プロの世界ともシームレスだ。
私にとっては、芸大・・・というと具体的に多くの人の顔や名前の浮かぶ場である。いろいろな世代の、いろいろなジャンルの。「全国書店で売り上げ1位」という帯のキャッチはすごいなと思うけど。
「入試倍率は東大の3倍」とあったけど??? もっと激しかったんじゃなかったっけ。高校の先輩で、「音楽の勉強するには東京に行かないといけないけど、金銭的にも私立は無理。芸大に入るのは難しいから東大いく」ってがんばってほんとに入っちゃった人が2人いるけど、2人とも今、音楽の世界でそれなりに活躍中だ。
意外に真面目に読める本です。
最後の秘境
東京藝大 天才たちのカオスな日常
新潮社刊 二宮敦人:著
・・・あ別に、新潮社さんからは何も貰ってません(笑)。