もともと〈エール弦楽四重奏団〉という桐朋系の仲間たちで、ソロでもSQでもがんばっている、という面白い人たちで、最初の頃からずっと応援していました。現在、4人ともそれぞれコンクールで成果を上げたりコンサートで実績を積んだりしつつ、外国に留学中(とはいえコロナで日本にいるけど最近は)。その中での快挙だったので、いやまぁおねーさんは嬉しい★ というわけ。
さて最近、追っかけと化している対象のおひとり、がピアニストの阪田知樹くん。
この人との邂逅は、別のアーティクルで書いたかなと思うので(うちのオーケストラでソリストしてくれて共演した、という超ラッキー)割愛。で、ともかく聴けば聴くだけすごいです。新しい面が見れる……てどんだけ持ってるんだよ。
いやはや。ともあれ日曜日の感想文を、某SNSに上げたのですが、ここはクローズドで会員しか見られないので、一部転送します。
■上野通明 チェロ・リサイタル ピアノ 阪田知樹
2022年4月3日(日) 18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
物凄いコンサートでした。今、まさに旬の2人によるテクニックとかぶっ飛んでる演奏会です。
同世代の2人、ご本人たちも仰ってましたが、「室内楽ではずいぶん昔から共演してきているのに、ガチでデュオって初めて」だそうで、これまた意外ですが確かにね。その意味でも2人の特別な個性がぶつかり、融合してまた新しい光を見せてくれたり、の時間だった。
まずは選曲が凄い!
阪田くんは、尊敬すべき”オタク"なので(<本業なので勉強家、とも言い換えられる)、プログラミングにもものすごく凝るヒトですが、今回はリストの《悲しみのゴンドラ》以外はすべて上野くんのプログラミングなんだそう。
J・S・バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第2番
ヒンデミット:無伴奏チェロ・ソナタ 作品25-3
リスト:《悲しみのゴンドラ》
シューベルト:ロンド h-moll(チェロ版)
= pause =
武満徹:オリオン
ブリテン:チェロ・ソナタ第2番 C-dur
= talk =
アンコール/ブリッジ:春の歌
18:30に始まり終演は21:00過ぎてました。阪田くんのコンサートはいつも長いですが、今回も、わはは。う〜ん、キミはしゃべりでも食えるよ(笑)・全体に派手にパフォームするよりも内面的に追及していくような、それでいて宇宙的な広がりがあるような、そんな曲が多かったこの日。透明感があり怜悧で美しいの。彼らの精神の透徹が見えるようで、とても心地よく届くのと、頭の中を清涼にしていってくれるような気がした。
個人的には冒頭のバッハとラストのブリテンがど真ん中でした。ほんっとに素晴らしかった。正直、バッハがこんなに「来る」とは思いませんでしたが、最高でした。2人が2人とも、近現代曲の演奏が凄いのはよく知っている。(聴けば感動! 阪田 with N響のショスタコーヴィチの1番とかすごかった!)しかしバッハ! 音が耳に残るほど印象的でしたね。
バッハの軽やかで美しいメロディとハーモニー。ピアノで弾いているとは思えないような、モダン・チェロで弾いているとは思えないような見事な造形。すいっと胸に落ちてくるようで、いやぁ好きだなぁ。
2曲目、ヒンデミットの無伴奏。ヒンデミットもいいよね、ヴィオラでもチェロでも。いやぁぐいぐい来る。上野くんの現在がほの見えるような音色の多彩さとか、音程や技術の確かさとか。伸びやかな音のアプローチ……これが一番かな。
……ちなみに前半の3曲はすべて、彼がコンクールで演奏した曲。研ぎ澄まされた到達感、みたいなのが迫ってきてとても良かった。
さてリストなら阪田選曲だなと思っていたら、やはりそうだった「悲しみのゴンドラ」。一転して静かで深く。なんか闇の中に浮かぶ水盤に水滴が落ちていくような、でもやっぱりリストだなというような。
そしてシューベルトは、……ヴァイオリン曲だよね、何度も聴いてるはずですが妙に新鮮。でもねーシューベルトって難しいんですよね。音がシンプルなだけに。この2人は若々しく、しかも熟練の味を持って弾き切ってくれましたけど、案外にこれが一番難物だったんじゃないかな。
休憩挟んで次は武満。この「オリオン」、本当に星座の声のような音楽で。タケミツも好きだ〜〜! ピアニストが曲の途中で突然立ち上がるのでなんだ?と思ったらピアノの弦をツメ(?)ではじく。武満の音楽は「間/行間」がとても大切だと思うのですが、これが2人ともスバラシ! いい音楽でしたね。
そしてそして。ワタクシはブリテンが好きです! この間の某上野の音楽祭でのブリテン(ノアの洪水)が聴けなくて超悔しい思いをした。数年前、ザルツブルクまでBPOの《ピーター・グライムス》聴きに/観に行ったのはシアワセだったなぁ。ついでにウィーンまで足を伸ばして、やはり同じオペラを違う演出/指揮者/オーケストラ=WPOで観て聴いた。
さてチェロには(弦楽器には。歌にも。)ブリテンの良い曲がたくさんあり、チェロソナタは3曲。この第2番はあまり演奏されないらしい。ところが上野くんは卒業演奏にこの曲を演奏し、賞を獲っているのだそうな。お得意だと思います。もう満喫、素晴らしかった。良いですよね。
万雷の拍手。鳴りやまず。アンコールはやるよなぁ、と思ったら、2人ともマイクを持って登場。阪田くんがインタビュアー。彼は自分の演奏会でも曲の由来とか作曲家のこととか、プログラミングのコンセプトとか、結構解説するけど、話の持って生き方とか上手いね。さすが! だいたいクラシック音楽の演奏家ってMCが下手すぎ(だらだら長かったり身内ネタになったり、緩急なかったり)だけど、阪田くんは評価してる(多少は長いけど)。新倉瞳ちゃん(チェリスト)もなかなか上手ですけどね、そのへんはポップスの人たちを見倣ってほしいといつもは思っているけど。で、阪田くんのは楽しいぞ。
アンコールはブリテンの師匠のブリッジ。この「春の歌」は、この日のアンコールにふさわしい美しい曲でした。
本当に、堪能しすぎて帰りの東海道線(がら空きだった)では、ほけぇとしたまま。折から振り出した雨がしとしと窓外を走って、いつの間にか地元駅にたどり着いたような気がします。
また演ってほしいなぁと思うけど。この曲目であれだけの満員の聴衆って、やはり2人の魅力なんでしょうね。ブラボー。