……というのが行われました。日本の新しい銘酒「獺祭(だっさい)」。山口県に本拠地を置く日本酒ですが、災害で蔵がダメージを受け、しかし立ち直っていまも頑張っている旭酒造さんのお酒です。
お酒に音楽を聴かせて育てたらどうなるか−−モーツァルトのワインとか一時期流行りました。個人的には(どうよ?)と思っていますが、それを本気で企画から立ち上げるというのは、ある種、夢はあるなぁという気持ちもあります。言い出しっぺは日本センチュリー交響楽団で首席指揮者を務める飯森範親。(なぜ山響でなくセンチュリー響だったのかは謎ですが、)ともあれ作曲家・和田薫、センチュリー響と共に2年かけて旭酒造と詰めつつ、新酒と交響曲−−お酒の人生?をテーマにした交響曲が生まれました。
「発酵と熟成……ぐらいだったら影響があるかもしれないねぇ」という社長さんのお言葉でまずは2曲。音響のプロの方が音を振動(揺れ、ですね)に変換して実際にお酒に与えたそうですが、1回目の挑戦では社長のGoが出ず。「これでは、、、」ということで2回目さらに質の改善に(お酒の、ですよ)務め、それで商品として世に出せるものができたのだとか。それが「獺祭『磨(mifaki)』」となりました。
音楽の方は、「それなら交響曲に」としてセンチュリー響のレパートリーに、と当然なるわけで。実際は交響曲にするにあたって3曲書き加え、5楽章構成となりました。
地元山口での初演、オーケストラの地元大阪での大阪初演と来て、東京では「グランドプリンスホテル新高輪の飛天の間」での上演。社長さん曰く、「音楽とお酒と美味しい料理は共に」とのことで、2,000人入る会場のステージ上にはフルオーケストラ、客席テーブル間仕切りの上各4席だけ、という贅沢な空間に、和田薫自身の指揮による「交響曲 獺祭〜磨 migaki〜」が鳴り響きます。
photo by (c)日本センチュリー交響楽団
指揮者が飯森→和田(飯森さんご病気によるピンチヒッター)に代わったことにより前プロは、和田薫が同楽団のために書き下ろした《祝響〜日本センチュリー交響楽団のためのファンファーレ》に変更。素敵な響きの音楽で、また管楽器もすばらしい!
そして約40分強の中に、緩急も物語もある曲。「獺越(おそごえ)」「発酵」「酔心」「熟成(AGING)」「その先へ(BEYOND)」と名付けられた5章は、それぞれ特徴のあるカッコいい曲です。
お酒が育てられる山口県の豊かな自然、山や海と空気、そして酵母の発酵や動き、人々の働くさま、樽や機械の動くさま、時間の流れ・・・なんだか目に見えるようで。大河ドラマかNHKスペシャル〜蔵元を訪ねて、、、か?という感じで始まりますが、細かい音作りが洗練されていてさすが和田薫。
情緒的な流れの中にも西洋と和の融合があり、リズミカルな5拍子に内面的な熱い情熱のようなもの、酒にかける人々の労力や心が感じられるようで。……単純に曲として聴いてもイイ曲なのです。って個人的に和田さんの曲が好きというだけかもしれませんけれども。伊福部の流れを汲みながらも、まったくそうではない立ち位置というか。和のテイストを持ちながらもきっちり西洋音楽の、奇を衒わない作りというのか。皆さま機会がありましたら彼の音楽を聴いてみてください。
日本センチュリー響は、とても良いオーケストラです! と言ってしまいますけれども、アンサンブルが良く、また良い意味でpunktolischeでない。揺れが美しい、響きのシャープな、また技術的にもしっかりしたオーケストラだと思う。実は注目しています。前日の東京オペラシティでのキャラバンコンサートは残念ながら聴けなかったのですが、また是非聴きたいですね。
その後、お楽しみのディナーはサーモンを基調にした彩鮮やかな前菜、がっつり牛肉の赤ワイン煮を季節の野菜を添えて。そしてシャーベットを盛ったデセールと、いやぁ皆、本当に「お酒が欲しかった!」という言葉が何度も出てました。
獺祭は出せないまでもその素材と製法から作った炭酸水、入口にはアルコール消毒液などもあり、皆さん工夫されている由。
素晴らしい音楽とお料理の一夜(といっても夕方早めに始まり20時には撤収。見本のような会でした)。オーケストラの皆さんに直接お会いできなかったのが寂しいですが、皆さまお疲れ様でした。久石譲さんが首席客演指揮者になられて、彼のオーケストラ曲も定期演奏会の中に組み込まれていくなど特徴を作ろうとしているオーケストラです。また定期も聴きたいなぁ、と思いながら会場を後にしたのでした。